日本の美術館の所蔵品から、今日の一枚

【高梁市の美術館で児島虎次郎の『登校』に出会う】

岡山県の観光名所の一つ、高梁市成羽美術館に所蔵された外光派の児島虎次郎による『登校』。
児島虎次郎『登校』(1906) 高梁市成羽美術館

岡山県の高梁市成羽美術館には、成羽出身の洋画家、児島虎次郎(1881-1929)のコレクションがある。なかでも足を運ぶ機会があれば、是非見たい作品がこの『登校』。

児島虎次郎というと、昭和初期に本格的な西洋画のコレクションを展示するために開館した倉敷の大原美術館の所蔵作品(エル・グレコやクロード・モネなど)をヨーロッパで買付けした人物として知られる。児島自身も絵描きとして優れた才能を持ち、パトロンであった大原孫三郎の支援を受けて、現在の東京芸術大学に進み、後に渡欧して西洋画の買付けをする傍ら、印象派を学んだ。その作風は社会派リアリズム的なものもあるが、主に外光派や印象派の影響を受けた明るい色彩のものが多い。この『登校』は外光派の影響を受けた初期の代表作の一枚。

作品を見ると、大きなキャンバスに姉妹が並んで登校する様子が描かれている。清々しい天気の中、緑の木々に囲まれながら学校へ向かう姿は何とも牧歌的。

岡山県の観光名所の一つ、高梁市成羽美術館に所蔵された外光派の児島虎次郎による『登校』。
児島虎次郎『登校』の一部

目を引くのは、子どもたちのモダンでお洒落な装い。着物を着て草履を履く一方で、上の子は洋風の日傘を差し、下の子は花やリボンが付いた麦わら帽子をかぶっている。さらに洋装のはしりであるエプロン風の前掛けをし、モダンな装いに合わせるように髪をシンプルに結う。画家はその子どもたちの姿を優しい眼差しで描く。

『登校』は、児島が東京美術大学(現 東京芸術大学)の研究科に在籍していた時に卒業制作として描いた。戸外の自然を背景に子どもたちが登校する姿を、優れた人物描写とともに描き上げた外光派的な一品だ。児島を指導した主任教授、黒田清輝はこの若い画家の技量を高く評価していたという。

黒田清輝と言えば、フランスに留学して「外光派」(フランス印象派と古典的絵画の折衷スタイルといわれる)を日本に紹介した洋画家の大家。学校の教科書にも載る黒田の《湖畔》を見ると、湖のほとりで画家の妻が腰を掛けて団扇を持ち、涼む姿が描かれている。人物のフォルムを掴かむ確かな描写力と、外光を活かして自然の中で人物を描く様は、まさに「外光派」のお手本といったもの。この絵の約十年後、『登校』が描かれた。

児島虎次郎も影響を受けた外光派の代表的な洋画家、黒田清輝による『湖畔』。
黒田清輝『湖畔』(1897) 黒田記念館

高梁市成羽美術館は『登校』の他にも、芸大を卒業した数年後にフランス、次いでベルギーへ留学し、本格的に印象派を学んだ時の『和服を着たベルギーの少女』などが所蔵されている。大原美術館のコレクションの礎を築いた児島虎次郎の若き日の逸品を、生誕の地の成羽で見てみたい。

岡山県の観光名所の一つ、高梁市成羽美術館に所蔵された児島虎次郎による『和服を着たベルギーの少女』。
児島虎次郎『和服を着たベルギーの少女』(1910) 高梁市成羽美術館

高梁市成羽美術館
岡山県高梁市成羽町下原1068-3
TEL 0866-42-4455
https://nariwa-museum.or.jp/
*『登校』が展示されているかは、事前に問い合わせを。

・公共交通機関
JR岡山駅から、伯備線<特急やくも>約33分または<普通>約55分、JR備中高梁駅下車。駅直通のバスセンターから成羽方面への備北バス約20分、「成羽」停留所下車、「たいこまるプラザ」隣。倉敷市にある大原美術館へ行く機会があったら、そこから足を伸ばして高梁市成羽美術館へ行ってみても。

児島虎次郎の『登校』が所蔵されている岡山県の観光名所の一つ、高梁市成羽美術館で、建築家の安藤忠雄による設計。
高梁市成羽美術館

■建築家の安藤忠雄による高梁市成羽美術館
安藤忠雄による打放しコンクリートの美術館が周囲の山々の風景と調和。バス停を降りて駐車場から階段を上がり、大名屋敷跡に建てられた美術館の敷地へ。そのままコンクリートの高い壁に沿って通路を奥に進むと、急に視界が開ける。目の前に、広々とした階段状の石畳の上に豊かな水が流れる「流水の庭」がある。そのまま回廊を歩くと美術館の入口に。

✎著/ 種をまく https://www.tane-wo-maku.com

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