番外編

【高橋由一の「静物画」はとてもオリジナル。『豆腐』『鯛』『桜花図』など】

香川県にある金刀比羅宮(こんぴらさん)にある高橋由一館の所蔵の高橋由一による静物画の作品の一枚、『豆腐』。
高橋由一『豆腐』(1877年) 金刀比羅宮所蔵

文政生まれの洋画家の高橋由一(1828-1894)と言えば、日本で本格的な西洋画を描いた最初の画家と言われる。

幼い頃より絵が上手だった由一は、少年時代は狩野派に学んだが、後に西洋画の石版画を見てその写実に感激し、本格的に西洋画の学習へ舵を切った。その後、チャールズ・ワーグマンやフォンタネージなどに僅かに教えを受けたが、西洋画の資料が限られた時代に、ほぼ独学で洋画の技法を身に付けた。

そんな由一の描く静物画は、本格的な西洋画の影響を受けていなかった分、かえって西洋画のジャンルである「静物画」の中でも、オリジナリティに溢れた作品になっている。

まず由一の静物画は、画面全体に対して描かれるもののサイズがとても大きい。冒頭の由一の静物画『豆腐』を見ると、豆腐や油あげなどをかなりズームアップして描いている。古典的な静物画、例えばオランダ絵画のそれと比べると、その大きさの違いは歴然。

ピーテル・クラースによる『静物画』。
ピーテル・クラース『静物画』(1647) Hermitage Museum

例えばピーテル・クラースの『静物画』のパンや肉、桃やワインなどと、由一の豆腐や油揚げを比べると、由一のものは一つひとつの画面に占める割合が明らかに大きい。

香川県にある金刀比羅宮(こんぴらさん)にある高橋由一館の所蔵の高橋由一による静物画の作品の一枚、『豆腐』。
高橋由一『豆腐』(1877年) 金比羅宮所所蔵

もう一枚、由一の『桜花図』でも、桜が生けられた桶がかなり接近した位置から描かれている。桜の枝の一部も画面から出ている。

香川県にある金刀比羅宮(こんぴらさん)にある高橋由一館の所蔵の高橋由一による静物画の作品の一枚、『桜花図』。
高橋由一『桜花図』金刀比羅宮所蔵

さらに由一が描いた題材も、豆腐や桜など日本ならではのもの。西洋画の「静物画」というと、ワインやパン、骸骨、花やフルーツなどを描き、宗教的、道徳的メッセージを伝えるものが多い。一方の由一は、当時の日本人の生活に身近なものを題材にした。

例えば17世紀に描かれた上の最初の二枚のアドリアーン・ファン・ユトレヒト作『ヴァニタス(花束と骸骨のある静物画)』(1642, 個人蔵)やヤン・ダヴィス・デ・ヘーム作『果物、花、グラス、ロブスターのある静物画』(1642, 個人蔵)などの寓意画は、骸骨や贅沢な花、空になりそうなグラス、やがて腐るフルーツなどを描き、人生のはかなさを暗示した。もう一枚の18世紀フランスのジャン・シメオン・シャルダン作『フラスコ瓶と果物のある静物画』(1750, Staatliche Kunsthalle Karlsruhe)では寓意的な要素は薄まるが、フルーツやグラスなどの西洋の伝統的な題材が使われている。

香川県にある金刀比羅宮(こんぴらさん)にある高橋由一館の所蔵の高橋由一による静物画の作品の一枚、『読本と草紙』。
高橋由一『読本と草紙』金刀比羅宮所蔵
香川県にある金刀比羅宮(こんぴらさん)にある高橋由一館の所蔵の高橋由一による静物画の作品の一枚、『鯛(海魚図)』。
高橋由一『鯛(海魚図)』金刀比羅宮所蔵

一方の由一の静物画を見ると、例えば『豆腐』は豆腐や焼き豆腐、油揚げ、『読本と草紙』は明治7年発行の小学校の読本や鉛筆、羽子板、鉛筆など、さらに『鯛(海魚図)』は鯛や伊勢海老に加え、大根やすだち、三つ葉などを描き、日常生活の中で馴染のあるものが題材となっている。

由一が身近なものを静物画の題材に選んだ理由は、当時、誰もが知っているものを描くことで、一般の人々に油絵の魅力を伝えて、普及を図るためだったと言われる。由一の静物画を見ると、身近にあるものを近い距離から描き、色や形だけではなく、それぞれの質感の違いを写実的に描くことで、油絵がここまで出来る、ということを当時の人々に伝えようとしていたようだ。

そんな由一の静物画は、西洋の静物画と比しても、強い個性を放っている。

香川県にある金刀比羅宮(こんぴらさん)にある高橋由一館の所蔵の高橋由一による静物画の作品の一枚、『豆腐』。
高橋由一『豆腐』(1877年) 金刀比羅宮所蔵

上記で取り上げた高橋由一の作品は、香川県の金刀比羅宮にある高橋由一館に所蔵されている。同館には静物画や風景画、人物画を含めて27点もの由一の作品が収められている。時期によって、他の美術館の展覧会に貸出されていることもある。展示の有無は事前に美術館に確認を。

静物画の『豆腐』『鯛』『桜花図』を始め、高橋由一の油絵作品が所蔵されている香川県の金刀比羅宮にある高橋由一館。
高橋由一館

高橋由一館
香川県仲多度郡琴平町
TEL 0877-75-2121
http://www.konpira.or.jp/articles/20200710_takahashi-yuichi/article.htm
・アクセス
〔車〕瀬戸中央自動車道坂出ICより約30分、または高松自動車道善通寺ICより約15分。
〔公共交通機関〕金刀比羅宮の「参道入口」までJR琴平駅下車徒歩20分、琴電琴平駅下車徒歩約15分。
いずれの場合も、金刀比羅宮の参道入口から徒歩で石段を上がっていく。
御本宮まで785段、奥社まで1,368段の石段が続くが、高橋由一館はその途中にある。

✎著/ 種をまく https://www.tane-wo-maku.com

参考/「高橋由一作品集」2019 金刀比羅宮

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